図書館で拾った一文


05
図書館が休みの日、館長は網と虫かごを持って野原に昆虫図鑑を捕まえに行き、次の日にはいつも、もう昆虫図鑑は要りません、と副館長に叱られる。

06
泥棒は図書館にあるすべての書籍を盗んでしまおう思ったが、海の大好きな子どもがいると可愛そうなので、「海辞典」だけは残して行った。

07
後日、泥棒が図書館に行くと、「海辞典」は貸し出し中だったので、すっかり安堵してシナモンパンを買って帰った。

08
図書館は図書館に生まれてきたことが嬉しくて、時々どこにあるのかわからない心の中で皆に、ありがとうを言う。

09
図書館を走り回る子供のポケットから湿気たねずみ花火がこぼれ落ちて、夏は小さくてもいつか願いのように終わる。

10
図書館にも秋が来て、館内の何処からか鈴虫が鳴き始めるその姿を、誰も見たものはいない。