家電


09
近所の電気屋さんに「タイムマシーン売切」の貼り紙が出てからもう七百年が過ぎた。

10
洗濯機にアメフラシが住み着いたので今日から洗濯物は紫色に染まります、と朝の家族会議で妻は口火を切った。

11
すべてのものはいつか必ず土に還るのだ、と信じて、古くなった家電たちは今日も自分の墓を掘り続けている。

いろいろ

05
テレビの中から自分の名前を呼ばれている気がして振り返るけれど、まだ家に帰る途中の上り坂だった。

06
冷蔵庫の中から出てきた子供たちが行儀良く列をつくり、中庭でチューリップになって咲き始める。

07
生まれてからひたすら乾電池を食べ続けた男が最後の一本を食べ終えると、判定員は悲しそうに「参考記録」の旗を振った。

08
砂漠の真ん中に誰かが落としていった室外機は、まだエアコンと繋がっていることを疑わずに、ファンを回そうとする。

くにゅくにゅ列車が
小さくて古いバス停から
駝鳥を三羽乗せて行った
駝鳥たちが仲良く
キャラメルを分け合っているのが
窓の外からも何となくわかった
他に何も無い妹の手を引いて
僕は河原を歩いて行く
途中、雑草のようなスミレの花を
母のために摘んで帰った
母はとても喜んでくれて
優しく痩せた手で新聞紙にくるみ
多分、大切にしてくれるにちがいなかった
疲れたでしょう
と母はバターと匙を持ってきてくれたけれど
血の味がするから、と
妹は少し嫌々をした

書きかけ

なんか、もうちっと淡々と書いたほうが良さげかな。

くにゅくにゅ列車が
小さくて古いバス停から
駝鳥を三羽乗せて行った
駝鳥たちが仲良く
キャラメルを分け合っているのが
窓の外からも何となくわかった
わたしも乗りたいな
と小さく言う妹の手を引いたまま
僕は水に沿って河原を歩いた
途中、雑草のようなスミレの花を
母のために摘んで帰った
母はとても喜んでくれて
優しく痩せた手で
大事そうに新聞紙にくるみ
テーブルの上に置いた
疲れたでしょう、バターをお舐めなさい
と母はバターと匙を持ってきたけれど
血の味がするから、と
妹は少し嫌々をした

図書館物語

24

25
雪が降った日は、図書館に来ている人みんなで雪だるまを作るけれど、名前を何にするか決める前にいつも融けてしまう。

25
春になると図書館の周囲一面はきれいなお花畑になって、時々軽い怪我をする人がでてくる。

26〜27

図書館で拾った一文


11
図書館の一階フロア南西角はタイル一枚分が海になっていて、そこだけ「遊泳禁止」の看板が立っている。

12
図書館は駅から歩いて五分です、という案内を見た人から、走れば何分ですか、とか、雨の日は傘立てがありますか、とか、私はどうしたら良いのでしょうか、などの問い合わせが年に数件ある。

13〜22

23
「今度の日曜日は図書館の日です アタリが出るともう一冊借りれます それと元気なアキアカネを差し上げます」図書館通信 第九四三号より