今日は夏休み。

母さんの中を
金魚がぷかぷか泳ぐ
今朝から物干竿では
行方知れずの自転車が
干からびて涼しい
母さんの背中
バズーカ砲つけたら
悪いロボットみたいだ
だから僕たちは
誰も殺しちゃいけない
何も語らないために
母さん、走るよ、見てて、
てててててー
見て、てててててー

未完

へび


朝起きて、俺
ヘビと戦った
その日はとにかくひどい洪水で
俺の大事にしていたポシェットも流され
銀行などの床も水浸しになり
家の冷蔵庫は野菜室まで水が入り込み
それでも、俺
ヘビと戦った
ヘビは鎌首をもちあげ
毒があるのかないのかは
種類がわからないのでわかるはずもなかったが
どうせヘビにも俺の種類なんてわかりはしないのだ
だから俺、頑張って
ヘビと戦った
手をこうして、それからこんなふうな格好をして
そうこうしているうちに朝がきて、俺
ヘビと戦った
洪水のせいでさっきから
父と母の体が見つからないのだが
俺は俺の膝みたいなところまで水につかりながら
街を歩いて探しまわり
時々、交差点で信号待ちしながら、俺
ヘビと戦った
途中、母方の叔父さんと会ったが
俺のあまり知らない叔父さんだったので会釈だけして
新任研修の時に習った角度どおりの会釈をして
ヘビは鎌首をもちあげ
誰もヘビとの戦い方なんて教えてはくれなかった
生まれてからずっと誰も教えてくれなかった
とにかく、冷蔵庫の野菜室の水をくみ出し
キャベツの類とニンジンの類とほうれん草の類に分類し
けれど、時々開いてはまだ知らない世界を夢見ていた俺の
大事な食品成分表もポシェットといっしょに流されてしまったので
含まれているミネラルやカロリーも調べられずに、俺
ヘビと戦った
俺はけっして戦うために生まれてきたわけではない、けれど
俺はヘビと戦うために生まれてきたのだ
そんなことを考えているうちに朝がきて、俺
ヘビと戦った
窓を開けると、あんなに探していた父と母が
体ごと家の方に泳いでくるのが見える
もう、水は全部引いたのに、泳いでやってくる
その見事なフォームに見とれているうちに
ヘビはついに俺の脚にかみつき
少しずつ空気が抜けて身体はしぼみ
ついに俺はヘビになった
正確に言うと、やっとなれたのだと思う
ヘビになった俺は隙間のようなところから外に出て
俺になったヘビは、またどこかで戦おうと心に誓うのだった
父と母はようやく家に泳ぎ着き
俺になったヘビが、おかえりなさい、を言うと
父は、今日の夜は出前でいいだろう、と言い
母は、おまえを産んでよかった、と言う
もう数十年も前の話なのに
まるで新品の思い出のように
おまえを産んでよかった、と言う

いろいろと

人はセミになれない
遺言を残すことに
とても忙しいから

+

縁側でキリンの幽霊が
夕涼みをしている
動物園に帰りそびれて

+

モノレールが虹をくぐり抜ける
泣きじゃくる運転士を
たった一人乗せて

+

骨を拾っていると
誰のものかわからなくなって
鎖骨のあたりを押してみる

いろいろ


口が間違ってる
何も無い
ただ薄暗いフライパンで
僕らはまだ浅い性器を
這いずりまわした
海岸線の潮風に乗って
蝶はどこまで
飛ぶつもりなんだろう
駅長、あのTシャツは息絶えてます、と
赤ん坊は夢の中で
業務日誌を書き終えた

18
岸辺にうち上げられた蛍光灯に海ほたるが付着して、かつての団らんはまた続けられるだろう。

19
人々が衣服を汚すことのない世界を夢見て、洗濯機はひとり最終列車に乗り込むのだった。

20
製造番号WH775691の計算機は計算が苦手なので、家族が寝静まるとこっそり計算ドリルで特訓をするけれど、文章題に出てくる太郎さんのリンゴを自分も食べてみたいものだと常々思う。

家電

14
風に乗れなかった紙飛行機が一機、エアコン売り場の床に墜落している。

15
このゲーム、2と3では使えるゲーム機本体が違いますけどお孫さんはどちらが欲しいと言ってました?と店員に聞かれて、財布のお金を数えているおばあさんの手から落ちた手書きのメモが、人の足に踏まれてくしゃくしゃになっていく。

16
男は朝起きて電気シェーバーでひげを剃ろうとしたが、顔が無いことに気がついたので、仕方なく歯を磨こうとしたがやはり顔が無かったので、泣こうとしても泣くこともできなかったので、大好きな天気予報を見ることも聞くこともできなかたったので、念のため出掛けに傘を一本持って行くことにした。

17
とある電化製品の取扱説明書は先鋭な思想と美しい文体とで、世界的に権威の高い文学賞を総なめにしたが、製品の方は必要なネジやバネが無かったりなど欠陥だらけで、さっぱり売れなかった。

家電

12
掃除機に鎖をつけて散歩させている男の背中から生えている翼は、空を飛ぶには退化しすぎているようだ。

13
祖父の愛用していた鉱石ラジオを珍しそうにひと舐めして、オオアリクイは別のアリ塚を探しに行った。