のこり70


今日も一日
列車はやって来なかった
駅員は所定の事項を
日誌に書くと
丁寧なお辞儀をして
夜勤に引き継ぐ
それから他の駅へと歩き
列車に乗って帰宅をする
 

色をなくして
列車は走る
既に形を失い
音も名前も失った
それでも車掌が
列車だと言い張るので
運転士は春の土手を
全速力で走る
 

自分の身体の一部が
埋まっている気がして
深夜
砂場へと出かける
いくら掘っても見つからない
時々何かがあるけれど
身体のどこにも
当てはまらない
 

いつも
三人なのに
いつも
八等分
してしまう
 

枕の中を航行する
船の甲板で
あなたが手を振っている
もしかしたらそれは
尻尾を振っている
あなたの犬かもしれない
輪郭が曖昧なまま
睡眠という
悲しい航海が始まる