今のところ

以下一つは頭だし。


好きなものを頼みなさい
娘にメニューを渡す
 
ここまでで43個残り57個
 

大工さんたちが私を囲んで
私をはがしたり
何かを取り付けたりし始める
リフォームをするのだと言う
頼んではいない、と抗議すると
家の人に許可をいただいてますから
そう返される
父も母もすでにこの世にはいない
妻とはとっくに別れた
いや、そんなことはない
元気な父と母
美しい妻と可愛い息子と娘
それに産まれたばかりの仔犬
優しい思い出に包まれて
幸せな気持ちになる
脳みそを取り替えられたようだ
新しい脳みその
どこか遠いところで思ってる
 

目が覚めると
家が巨大なクラゲになっていた
さっきまで寝ていた布団も
すっかり湿っている
クラゲは透明な触手を揺らして
威嚇をする
なるべく刺激しないように
そっと洗面所に行き
蛇口をひねる
タツノオトシゴが沢山出てくる
実は水の中にいるのだと
気づきたくないので
呼吸ばかりしている
  

距離とは
きっと
何かの理由
会いたいとか
会いたくないとか
頭突きをするとか
しないとか
 

夜中にお腹がすいて
台所に行くと
すでに母は来ていた
父が大事に育てていた
カイワレダイコンを
二人して食べた
父は怒らなかった
笑うことしか
知らない人みたいに
 
少詩集「書置き」として1〜30までアップ。
残りは以下の9作。ということで現在39個あと61個
  

鏡に向かって
笑う
そんな嘘
ばかりついてる
 

栞の代わりに挟んだ
刺身がもう腐って
臭いから
部屋の隅に寄せる
明日は部屋の外にある
明後日は家の外に出す
 

足がたくさん生えていたので
あるだけの靴やサンダルを
履かせていく
それでも足りなくて
近所の靴屋に買いに出かける
途中一足拾って
少し得した気分
どこに生えていたのか
なんて余計なことは考えずに
買い物は続く
 

よく晴れた日
ハンガーに吊るして
自分を干してみる
きっと人はこのように
干からびていく
水分も記憶も
 

このエレベーターは
どこまで行くのだろう
既に最上階を越えて
それでもまだ
昇り続ける
忘れ物を置いていくように
懐かしい人の顔が
次々と浮かぶ
懐かしくない人も
懐かしい人になっていく
 

枕の中を航行する
船の甲板で
あなたが手を振っている
もしかしたらそれは
尻尾を振っている
あなたの犬かもしれない
輪郭が曖昧なまま
睡眠という
悲しい航海は始まる
 

今日も一日
列車はやって来なかった
駅員は所定の事項を日誌に書くと
丁寧なお辞儀をして
夜勤に引き継いだ
それから他の駅へと歩き
列車に乗って
帰宅をする
 

町の外れにはピラミッドがある
それが偉い人のお墓だということは
小さな子供でも知ってる
どれだけ偉い人なのか、ということは
入学して二年目に勉強する
三年目になると子供たちは
先生に引率されて
ピラミッドの頂上に登る
先生は町を見下ろしながら
あれが学校、駐在所、何とかという商店
と町の地理をひととおり説明をする
それから数年後町を出た子供たちは
他の町で育った同級生や同僚に
懐かしそうにその話をする
そして大抵の場合
そんなピラミッドなど知らない
と言われる
 

空腹に
ソーセージが詰められていく
もしかしたらそれは
ウィンナーかもしれない
そう考えると
すっかり縮みあがって
夜盗の助走は
終わらなければならない