新しい朝が来ない

 
これは東三丁目に行きますか
本の表紙に描かれた
バスの絵を指差しながら
初老の女性が途方に暮れている
小さい頃によく遊んだマリコちゃんに
会いに行きたいのだと言う
マリコちゃんにどうぞ、と
グレープフルーツを差し出すと
女性は嬉しそうに微笑む
どこまでが思い出で
どこまでが女性自身なのか
すでに見分けはつかなくなってた
  
ここまでで45個。残り55個。
 

三時間目図工の授業では
遊園地の絵を描く課題が与えられた
級友たちが様々な形の乗り物を
色彩豊かに塗りつぶしていく中
少年だけはみすぼらしいベンチを描いた
何に乗ることも無く父親と二人で
一日中ベンチに腰掛けていた
遊園地にはそんな思い出しかないのだ
少年は座っている人を描き始めたが
そこには少年と母親の
幸せそうな姿しかなかった
 
多分来なくて良いのだと思う。